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ビジネスと人権・ニュースレター

第8号 (2015年12月21日発行)
テーマ: 環太平洋パートナーシップ(TPP)協定と人権

2015年10月、環太平洋パートナーシップ(TPP)協定が大筋合意に達しました。本協定の協議に参加している12カ国の中には、米国、日本といった先進国に加え、日本企業も多く進出するベトナムやマレーシアなどの東南アジアの途上国も含まれます。TPPは、太平洋を囲む12カ国で貿易や投資の自由化やルール作りを進めることを定めた枠組みですが、本協定の合意文書1には、「労働」に関する独立した章が設けられ、本協定の締約国に、児童労働や強制労働の撤廃、結社の自由の確保等を求める内容となっていることが大きな特徴の一つです。今回のニュースレターでは、この労働の章の具体的な規定の内容と、これらの規定が日本企業にどのような影響を与える可能性があるかについて考察します。

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環太平洋パートナーシップ協定(TPP): 「労働」章の内容

TPP参加国が世界のGDP に占める割合は約36パーセント、同じく世界の貿易に占める割合は約26パーセント2で、協定が発効すれば、世界最大規模の自由貿易圏が実現することとなります。貿易に関する国際的な枠組みであるWTOには「労働」に関する規定はありません。他方で、TPP協定の合意文書、第19条に、「労働」に関する章が設けられ、本協定への参加国は、例えば、以下のような規定を遵守することが求められます。

  • a.自国の法律等において、ILO宣言に述べられている以下の権利を採用し、及び維持する(第19.3条)
    • a.結社の自由及び団体交渉権
    • b強制労働の撤廃
    • c.児童労働の実効的な廃止
    • d.雇用及び職業に関する差別の撤廃
  • b.最低賃金、労働時間、労働安全衛生に関する適正な労働条件を規律する法律等を採用し、及び維持する(第19.3条)
  • c.強制労働によって生産された物品を輸入しないよう奨励する(第19.6条)

さらに、TPP協定の大きな特徴として挙げられるのが、この「労働」の章の規定の解釈又は適用に関してTPP参加国間で生じる問題も、「紛争解決章(第28条)」の適用対象となることです。第28条は、TPPで認められている利益の停止(suspension of benefits)という、一種の経済制裁を発動できる仕組みを規定しています。アメリカ政府は、TPP協定は、拘束力且つ強制執行力のある仕組みを設けていることで、TPP締約国における国際的な労働基準に達していない労働環境の改善に資すると説明しています。3

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TPPが途上国の労働環境に与える影響及び日本企業への示唆

TPPが発効すると、TPP締約国は、例えば、ILOの中核的とされている労働基準(結社の自由及び団体交渉権の実効的な承認、強制労働の撤廃、児童労働の実効的な廃止並びに雇用及び職業に関する差別の撤廃)を担保するために、必要に応じて、法律を制定・改正をすることが求められることとなります。

この点、アメリカは、幾つかのTPP参加国と二国間の「実施計画(bilateral implementation plan)に合意するとともに、二国間の政府間委員会を設置し、実施計画の履行をレビューすることで合意をしていることも注目されます。米ベトナム間の実施計画4において、ベトナム政府は、これまで認められていなかった、労働者による独立した労働組合の結成及びの加入を認めること、また、児童労働の課題に対応するために、繊維産業の工場等への査察を含む強制力のある措置を実施するための戦略(to develop and implement a strategy for targeting inspection)を策定・実施すること、そのために必要な法改正を含む改革を実施することにコミットしています。マレーシアの実施計画5には、移民労働者が関係する強制労働に関し、自分のパスポートを保持する権利や、権利が侵害された時にどのように通報できるかについて、企業が、各労働者に通知するように求めるよう関連規制を改訂すること等が含まれます。こうした、二国間の実施計画への違反も、TPPの第28条で規定されている「紛争解決」手続きの対象となることから、こうした実施計画にも一定の強制力が発生するもの思われます。

TPPの発効を見据えて、ASEANのTPP参加国の一部は、国際基準に達しない労働分野の国内法や規制、制度の改訂を始めており6、こうした労働分野における国内の制度改革を通じて、当該国で操業する日本の関連企業も、ILOの中核的労働基準に沿った事業実施がこれまで以上に求められるようになります。さらに、TPP協定第19.6条にあるように、TPP締約国は、「強制労働によって生産された物品を輸入しないよう奨励する」ことが求められることから、この点に関して、日本政府を含む各国政府がどのような政策を打ち出し、そして、日本企業はどのように取組を深めていくかの検討が求められてくると言えます。

TPP協定にこうした「労働」の章が追加されたことは、国際的な労働・人権の基準を普遍化させることを通じて公平な競争条件(level playing field)を構築し、こうした基準を尊重しない国や地域に政治的・経済的に対抗しつつ、労働・人権基準を国際的に高めていく試みと捉えることもできます。同時に、世界のどの地域で事業を実施する場合にも、労働・人権分野の国際的基準を普遍的に尊重していくことが「企業の責任」として国際的なスタンダードになりつつあることも物語っています。とりわけ、途上国における自社グループ或いは自社のサプライチェーンの労働・人権状況に関し、自社の「人権尊重」責任をどのように果たしていくか、日本企業の姿勢も引き続き問われていくことになりそうです。

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