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ビジネスと人権・ニュースレター

第9号 (2016年5月発行)
テーマ: ビジネスと人権・アジアフォーラム(ドーハ)

2016年4月19~20日、カタールの首都ドーハにて国連主催のビジネスと人権・アジアフォーラムが開催されました。これは、毎年ジュネーブで開かれるビジネスと人権フォーラムを補完する地域フォーラムとして、ラテン・アメリカ、アフリカに続き、アジア地域で開催される初めてのものとなりました。国連の定義によるアジア地域とは、中東から日本までを包含し、当フォーラムには60カ国から政府・企業関係者および市民総勢400名が集結しました。日本からは専門家のパネリストとモデレーターが参加しました。ジェトロ・アジア経済研究所(IDE-JETRO)の山田美和氏は、取りまとめを行う4名の専門家の一人として、2日間のフォーラムの最後に、参加者に対するフィードバックを行いました。さらに、日本からは、外務省、株式会社日立製作所、株式会社LIXIL、日本たばこ産業株式会社(JT)、EY Japan、IDE-JETROおよびビジネス・人権資料センター日本事務所の代表者も参加しました。

フォーラムの主なテーマ

このフォーラムは30に及ぶセッションで構成され、パネリストとして参加した専門家と聴衆との質疑応答の機会も用意されていました。主な議題は以下の通りです。

人権と大規模スポーツイベント

  • フォーラム開催地としてカタールが選ばれたのは時宜に適っていました。同国で開催される2022年FIFAワールドカップが近づくにつれ、同国の建設現場での労働環境に向けられる目は厳しさを増しています。ラグビーワールドカップ2019と、2020年東京オリンピック・パラリンピックの開催国である日本に直接かかわる問題として、このようなスポーツイベントに関与する企業は、その事業活動やサプライチェーンにおいて、人権侵害が発生しないことをたゆまず証明していく必要があるという議論がありました。人権侵害はこうしたスポーツイベントが達成しようと掲げる前向きなレガシーと根本的に相いれないものだからです。

移民労働者

  • 複数のセッションで、さまざまな視点から移民労働者の権利が議題として取り上げられました。受入国および移民労働者の出身国の双方で、移民労働者自身が移住先で働くための就職斡旋手数料などを支払っていないことを担保する必要性や、受入国において不十分な労働環境に置かれることがないようにする必要性なども議論されました。各国政府には、国家プロジェクトや政府調達契約への入札の際、人権関連の基準を設定することが求められました。そのためには、価格競争になると入札者はどこかで手抜きをせざるを得ず、その結果、特に人件費が削られる傾向にあることを認識する必要があります。
  • この論点は、すでに批判が集まっている「外国人技能実習制度」の乱用にかかわっている日本企業にも当てはまります。 こうした企業は今後世界中からますます厳しい目が向けられることになると予想されます。

アジアにおける「国別行動計画(NAP)ギャップ」

  • 国連代表や市民社会からは、いわゆる「アジアの国別行動計画(NAP)ギャップ」(予定と実際の進捗状況との相違)を懸念する声が上がりました。アジアの各国政府による、「国連ビジネスと人権に関する指導原則(指導原則)」導入に向けた国別行動計画策定が進んでいないのです。アジアの小国の中には、NAP策定に向けてすでに大きく進展している国々もあり、フォーラム参加国からも支援の申し出がありました。
  • 国連ワーキング・グループ(作業部会)のある代表者は、(日本を含む)G7はエルマウサミットにおいて行動計画の策定を宣言したこともあり、アジアにおいて日本がリーダーシップを取る余地はあるとコメントしました。

日本についての公開討論 : 日本企業の挑戦

アジア地域フォーラムにおいて、EY Japanは「日本企業の挑戦」と題してIDE-JETROおよび国連グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパンとの共催で行われた公開討論のモデレーターを務めました。2020年東京オリンピック・パラリンピックにより、日本および日本企業に世界の注目が集まる中、このセッションではビジネスと人権に関する指導原則の導入に向けた日本の取組みを検討しました。このセッションは、国連グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン様とEY Japanが共同制作した小冊子、「ビジネスと人権 日本企業の挑戦(英文タイトル:Business and Human Rights - Corporate Japan Rises to the challenge)の発表の場にもなりました。この冊子は、国内外の先進企業による人権方針や人権デューデリジェンスへの取組みのケーススタディーを紹介しています。公開討論セッションでは、

  • パネリストの小竹茜氏(株式会社LIXIL)は、企業活動の中に人権を組み込むことのメリットと課題についてお話しされました。
  • パネリストの上野明子氏(グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン:GCNJ)はビジネスと人権を取り巻く日本の歴史的傾向、日本の大企業による人権の取組み、および活動の広がりを妨げる障壁を紹介されました。
  • パネリストの高橋宗瑠氏(ビジネス・人権資料センター日本事務所)は、過労死、女性の労働環境改善の必要性、および移民労働者の人権侵害を取り巻く懸念等、日本固有の人権問題についてお話しされました。
  • パネリストの佐藤寛氏(IDE-JETRO) は、アジア経済研究所(IDE)が最近実施した、日本企業3,000社に対するアンケート調査の結果を紹介されました。その調査によると、CSR方針を策定している企業は、全体の3割にとどまっていることが分かったそうです。企業規模別に見ると、大企業の70%がCSR方針を策定している一方で、中小企業では25%にとどまっているということです。ただし、CSR方針の内容を見てみると、労働環境の改善・確保を明示しているのは7割以上ある中で、人権尊重を盛り込んでいるものは5割に満たなかったそうです。佐藤氏は、世界でユニバーサル(普遍的)に認識されている意味での人権と、日本で解釈されている人権の乖離(かいり)を克服する必要があるという点も指摘されました。

質疑応答では、パネリストはインドネシア、ガーナ、ミャンマー、英国および日本から参加した企業および市民の代表者から質問を受けました。 今回のアジア地域フォーラムのような国際討論の場に日本政府がもっと積極的に参加するべきであるという議論も出ました。日本企業の人権関連の取組みについても、さらなる発信を期待するという声が寄せられました。参加したパネリスト全員が、この分野での日本政府のリーダーシップを望む前向きな意見で一致しました。

本イベントの趣旨説明は以下のPDFからご覧いただけます。

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2015年10月の英国現代奴隷法の施行を受けて、日本国内でも同法の基本的な内容についてさまざまな情報が発信されています。英国で事業を行う日本企業の多くも、自社の事業活動およびサプライチェーンについて「奴隷と人身取引に関する声明」を作成しなければならないことは広く知られるようになりました。同法施行後初の声明は2016年3月に終了する会計年度で報告を行う企業から今後5カ月以内に 発表されることになっています。 本セミナーでは、同法の基本的な概要説明から一歩踏み込んで、EY JapanとEY英国の人権専門チームが法的期限に先んじて声明を発表した239社(日本企業6社を含む)から得られる実践的な知見と行事例などをご紹介します。

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EYの人権関連サービス

EY Japan気候変動・サステナビリティサービス(CCaSS)は、国際的に認知された人権を、クライアントがあらゆる事業拠点で尊重できるよう支援しています。チームのメンバーは国際的な人権領域で指導的役割を果たした経験を持ち、国連のビジネスと人権フォーラムで講演したり、国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)を支援したりしています。Owensと牛島は、 国連グローバル・コンパクト(ニューヨーク)の「人権と労働に関する作業部会」の日本代表を務め、EY Japanはグローバル・コンパクト・ジャパン・ネットワークとパートナーシップを締結しています。名越は、ジュネーブの国連人権理事会における日本政府代表として、人権領域の国際交渉を数多く担当してきました。CCaSSチームのメンバーは、以下のような人権関連分野で広範な実務経験を有しています。

  • 人権政策・方針の策定
  • 人権デューデリジェンス
  • 人権関連のEラーニング
  • 利害関係者とのエンゲージメント
  • 人権関連の情報公開と報告
  • 人権教育と意識改革
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