本コンテンツは日経電子版広告特集「どう対応する?米国の大型税制改正」(2018年1月~2018年3月)で公開したものです。

米国の大型税制改正 日本企業への影響を考える

#01

EY税理士法人 統括代表社員
網野 健司氏

30年ぶりの大型改革 米新税制の課題は

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30年ぶりの大型改革 米新税制の課題は

 約30年ぶりとなる大型米国税制改革が2017年末に成立した。抜本的な制度の変更に伴い、米国で事業を展開している日本企業にどのような影響が及ぶのか。税務、監査、アドバイザリー、およびトランザクションにおいて豊富な業務経験を有するEY Japanの専門家が5回にわたって解説する。1回目はEY税理士法人の統括代表社員、網野健司氏が税制改革の全体像を説明する。

先進国の平均レベルの低税率 世界標準に合わせる

 米国でこの1月から新税制がスタートしました。トランプ大統領が昨年12月下旬、税制改革法案に署名し成立したもので、米国での抜本的な税制改革はレーガン政権下で行われた1986年以来、約30年ぶりとなります。米国の市場は大きいだけに、そこで事業を行っている日本企業にとってもかなりの影響が出ると見るべきでしょう。

先進国の平均レベルの低税率 世界標準に合わせる

 米国が税制改革に踏み切ったのは、世界でも高水準な法人税率、外国企業にとって使い勝手の悪い課税方式といった問題点が背景にありました。今回の改革では連邦法人税率の大幅引き下げと、「テリトリアル(源泉地国)課税」の導入が目玉となっています。従来、米国の法人税率は35%と世界的にも高かったのですが、2018年1月以降は21%に軽減。主要先進国の法人税率の平均レベルの水準まで引き下げました。

 また課税方式は、米国では長年「全世界課税」を採用し、その所得の源泉が国内であっても国外であってもすべてが課税対象になっていました。にもかかわらず米国の税収は上がらず、米企業が課税を逃れてきたのが実情です。そこで今回の改革では「テリトリアル課税」方式に変更。世界的にはテリトリアル課税が主流で、米国はようやく世界標準に合わせた格好になりました。外国企業にとっても使い勝手の悪さが解消されたのはプラス材料でしょう。

狙いは米国への投資呼び込み まずは受ける影響の分析から

 「米国ファースト」を掲げるトランプ大統領が署名した法案だけあり、新税制は米国への投資の呼び込みを狙ったものになっています。米国でモノづくりを行い、高水準な技術を米国内で活用し、所得を米国に落とすようにしてもらうための戦略的な取り組みと言え、米国企業が海外から雇用と利益を取り戻し、米国内で資金が流れるようにするのが目的です。一方で、米国に子会社を持つ日本企業にとっても、税率の引き下げやテリトリアル課税への移行は良い影響を及ぼすと考えられます。

 半面、ネガティブな影響もあります。「税源浸食・租税回避防止税(BEAT)」と呼ばれる制度がその一例です。グループ内で行っている取引のうち、既存の方法が新税制の下ではうまくいかなくなる可能性が出てきました。それだけに、まずはこの改革の影響がどう出てくるかの分析が必要になります。その上で、急ぎ対応すべき事案と、中長期的視点で取り組む課題を仕分けることが肝要です。

対米投資戦略の再構築も必要 専門家を活用した対策作りを

対米投資戦略の再構築も必要 専門家を活用した対策作りを

 真っ先に必要なのは決算への対応です。年末に法案が成立したため、税率の変更が12月末時点での財務諸表に影響します。グループ内の取引内容についても、新税制に合わせて必要なら変更していくべきです。また中長期的には対米投資のあり方まで含め、どのようにビジネスを進めていくか踏み込んで考えなければならないでしょう。将来のサプライチェーンやM&Aの方針にも影響は及ぶと見られます。またトランプ政権が終わった後にこの税制がどうなるかも考えておかなければなりません。

 そこで求められるのは専門家の知見です。ただし国際税務に詳しい人材は米国でも限られており、大企業はともかくそうでない企業の場合は苦労しているようです。日本企業にとっても状況は同じです。新税制が事業にどのようなインパクトをもたらすか、それなりのプロに話を聞かなければ情報は出てこないでしょう。国際税務に詳しい人材を抱える世界的にも大手の会計事務所の活用が欠かせません。

 米国と無縁でいられる日本企業など、ごく一部にすぎません。既に競争相手である米国企業は慌ただしく動き出しています。新税制への対応は待ったなしの状態です。

EY税理士法人 統括代表社員 網野 健司

Profile

EY税理士法人 統括代表社員 網野 健司

あみの・けんじ 2002年から05年までEYニューヨーク事務所の税務パートナー。10年7月から現職。